生産者は醸造学や地質学で現代風にワインに科学の視点を入れていると思うが、飲み手がワインを楽しむ要素
である飲み頃や飲み方についての計算は見当たらない。専門外でかつ適当ではあるがネタの1つとして
一般的な物理や化学、数学を用いて、それっぽい指標を算出してみよう。
今回は保管に関して考えてみる。ボトル内に入ったワインも化学反応が持続していて、酸化還元反応などに
よって分子量の小さいモノマーやオリゴマーから高分子のポリマーに変化するにしたがい安定する逐次反応
が起きていると考えられる。つまり化学反応によって熟成へ向かっていくわけだが、温度や振動によって
これら化学反応は加速する。今回は簡単にするために振動などの影響は除き、温度加速係数だけ考える。
化学反応の温度加速はアレニウスの法則が有名。
化学反応の速度定数τ=A・exp(-Ea/kT)という指数関数で表すことができる。ここでEaは活性化エネルギー、
kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。
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温度によって反応の適温があり、活性化エネルギーも変わるがここでは一定領域とする。活性化エネルギーは
通常実験的に求めるが、ここではワインの成分も総括して、あるワインの活性化エネルギーEa=80000J/molで
あったとする。また、アレニウスの式で逆数を取ると、ある状態までの到達時間になるので、
おいしい状態への到達時間L=B・exp(Ea/kT) と表すことができる。
例えば環境が完璧な場所に13℃で保管して3年後に飲み頃に達することが分かっているワインを題材にする。
これを20℃で保管すると490日後に飲み頃を迎え、25℃で保管すると1年を下回り283日で飲み頃になる。これ
を左図に示す。もちろん、温度上昇による変質や化学反応の速度バランスが変わらないという条件である。
次に13℃で3年後に飲み頃に達するワインを13℃で保管したときの時間経過と味わいの関係を計算してみる。
熟成に寄与する成分の残量に対して5%ずつ反応していくと仮定すると、図中央のように指数関数表記になる。
一方で人間の感覚は対数で表され、精神物理学のウェーバー・フェヒナーの法則によって以下のように書ける。
△E=k△I/I, 感覚量E = k・logI + C ΔI:弁別閾, I:刺激量, k:定数 ウェーバー比
つまり、熟成したと感じる感覚は化学変化や成分の増減そのものではなく、それらをさらに対数化した値に
比例するということになる。ここでは感覚量を6段階に換算したときの図を右側に貼り付けてある。
感覚値は0で無臭や無味、1でなんとか感知、2だと種類を識別でき、3で普通、4は強く、5は強烈という区分。
本来は物質や成分によって感覚の係数が違うが巨視的にまとめている。
初期にあるフレッシュさや果実味が熟成に変化していくという前提にしてあるが、面白いことに人間の感覚に
直すとフレッシュさは線形で減っていき、熟成感は2重対数の関数で増加するという結果になった。